東南アジアの高齢者

世界でも類を見ない速度で進んでいる日本の高齢化。厚生労働省の調べによると、2025年には75歳以上の高齢者の人口は全人口の18%、2055年には全人口の25%にも及ぶと言われています(参考:厚生労働省 近年の社会経済の変化と家計の動向)。

日本では高齢化が進み高齢者の医療や介護への関心が高まっています。日本の公的介護保険制度は2000年に開始されましたが、公的介護保険のサービス利用者は年々増加しています。

それに伴って介護施設や介護を担う人材が不足したり介護の社会保障費が増大するなど問題が生じています。高齢化は先進国を中心に世界的に進みつつあり各国で介護制度について議論や制度改正が行われるようになりました。

そこで今回、各国の介護の現状を比較し日本の介護の特徴をご紹介します。

日本の介護制度

日本の介護制度は「高齢者が自分らしい生活を送るための支援をする」目的で作られましたが、日本の介護制度が世界的に優れているものとして2点が挙げられます。

1.情報の透明性

日本では「介護サービス事業所の情報公表制度」が導入され、利用者が公的ツールを使って介護を受ける事業者を選べるようになっています。

施設の評判などをもとに利用者が介護施設を選ぶので、満足度の高いサービスが受けやすいシステムが整備されていると言えるでしょう。

2.介護サービスを利用しやすい

介護サービスを利用する敷居の低さです。例えば古くから介護制度が整備されているドイツと比較すると、日本の在宅サービスに対する給付額はドイツの3倍で対象範囲も広く設定されています。

また、日本では介護保険の受給資格が要支援から要介護5までの6段階の人々に与えられていますが、ドイツでは要支援と要介護度1の人々は受給の対象から外されています。

ドイツの介護制度

介護者と一緒に話をしながら歩く

ドイツの介護制度は「在宅介護優先」の方針がとられています。

高齢化率が2割を超えているドイツは少子化の進行もあり、日本と似たような厳しい状況下に置かれています。

そのため世界で初めて社会保険の仕組みを作り出し介護保険を導入した国でもあります。

特徴としては介護保険受給年齢に制限がないこと、虚弱高齢者の家族介護を支援するための現金給付制度があることなどが挙げられます。

国からの手厚い保護があれば、家族の方の介護への理解も得られやすく、より質の高い介護を提供できるでしょう。家族の方のモチベーションを保つ仕組みはこれからの課題といえるかもしれません。

  • 海外の施設を利用する場合であっても、介護保険給付が適用される
  • 介護施設の料金が高い
  • 介護保険は、基本的には重度の介護者の方を対象としている
  • 保険給付額が少ないことから、自宅で介護をする人が多い

フィンランドの介護制度

フィンランドの介護制度は高齢者の予防介護に力を入れているのが特徴です。

「高齢者のいるところに足を運ぶ」「高齢者にこちらから近づいていく」という、高齢者中心の徹底した予防的家庭訪問が行われているほか、高齢者との信頼関係を築くコミュニケーション能力が重要視されています。

フィンランドの介護サービスは利用者に安心感や自己存在価値の増大をもたらすなど絶大な効果があるそうです。 この取り組みは利用者だけでなくスタッフの仕事のやりがいをアップさせました。

利用者との信頼関係を築き、より質の高い介護を提供するために見習う点の多い制度といえるでしょう。

スウェーデンの介護制度

福祉国家として有名なスウェーデンはこれまでに社会福祉予算への惜しみない投資をしてきました。

しかし、その一方で高齢者の医療費削減を狙った政策も行われてきました。 代表的なものが病院介護から在宅介護への転換により介護者の入院日数を減少させた点です。

また、スウェーデンでは介護や医療に携わる人々の協力体制を築き、24時間在宅ケア体制を実現させました。

日本ではまだまだ地域や医療や介護などの隔たりがある部分もありますが、スウェーデンのような連携制度は質の高い介護を提供するために、これからの日本の介護業界に求められるものの一つといえるのではないでしょうか。

福祉大国や介護の先進国と呼ばれる由縁は1970年代まで遡り、早期から高齢者福祉が実践されてきたことにあります。

国が計画的に介護政策を実行しており、特に地方自治体であるコミューンを中心に在宅介護のサービスや訪問ケアサービスを充実させてきました。

このため、ホームヘルパーの公的地位は安定し多くの高齢者が住み慣れた自宅で生き生きと生活しています。

  • 地方自治体が介護サービスを提供
  • 原則的に在宅ケアが中心
  • 在宅やサービスハウスなど、施設の連携がとれている

つまり、周囲の人たちが高齢者の世話をするのではなく、本人が生活に必要なものを最優先に考慮して提供するという「生活援助」をサービスの目的としています。

また、在宅と老人ホームの連係がとれているため、必要に応じて場所を移動できるという点も、大きな特徴になります。ただし、ケア付きの施設に入居できるのは「在宅での生活が困難になった高齢者」であるため、国民からは不満の声も上がっています。

スウェーデンの社会福祉の根幹になっているのは社会サービス法(市民の社会・経済的な保障を目的とする)です。すべての国民の健康とケアが地域、施設どちらでも平等かつ質の高いものとなることを目指したものです。

スウェーデンの福祉に対する考え方では社会の中心に個人を位置づけ社会と個人が直接契約すると定義し、自己決定・自己選択と自己投資を重要とします。

社会全体の不透明をなくし「市民参加の政治」を行い、政治に対する信頼を得ることで高齢福祉社会を形成してきました。

  • 老人のためのサービスやヘルスケアはコミューン(基礎自治体)が責任を持つ
  • 在宅介護が主流であり、老人が安心して介護サービスを受けられるような環境が整っている
  • 作業療法や理学療法により、自立した生活を送れるようなサポートがある
  • 住宅内を高齢者が暮らしやすくするための住宅改造資金手当が支給される

イギリスの介護制度

自転車で海沿いをさっそうと走り抜ける

イギリスは公的年金の支給額が低いため、それを是正するための年金の繰下げ制度が設けられています。国民ひとりひとりが元気に働くことを支援しながら老後のための経済的な基盤づくりをサポートしています。

ここでもやはり在宅ケアを重視する対策が進んでおり民間会社が地方自治体から委託されてサービスを提供することによって、ホームヘルプやデイセンター、ソーシャルワーク、配食サービス、福祉用具の提供、移送サービス、リフォームなどといった多様なサービスの質を高めています。

「揺りかごから墓場まで」という有名な社会福祉政策のスローガンは、第二次世界大戦後にイギリスが掲げたものであり、より良い社会福祉の実現にむけて努力してきました。

  • 介護休業制度がない
  • 地方自治体が介護サービスを提供
  • 在宅ケアが中心
  • 企業が介護と仕事の両立支援を行っている
  • 企業の活動を民間団体が支援している

「自宅での生活を続けたい」という考え方を持った高齢者が多く、介護サービスの内容についても、高齢者の生活援助を目的としたものが多く見られます。
また、民間団体の支援を受けながら企業が介護と仕事の両立を推進しているという点も特徴的でしょう。

  • 国民保健サービスに関しては無償で介護を受けることができる
  • 重度の介護者に限定されるが、国から介護給付を受けられる
  • 在宅ケアをサポートするためのサービスが充実している
  • 施設での介護ケアはそれほど重視されていない

デンマークの介護制度

寝たきり患者がほとんどいないとされる北欧の小国デンマークですが、すでに高齢化率が15%を超えています。しかし、高齢者福祉は非常に発達しており高齢化対策のモデル国として話題に挙がっています。

福祉と医療の垣根がない地域包括ケアが行われており家庭医制度とよばれています。

「人」を中心に介護と医療そして見守りや生活支援などのサービスを継ぎ目なく連携することで、高齢者のニーズに合わせたきめ細かい対応が可能となっています。

つまり高齢者は自宅に住み続けながら必要なケアを受け取ることによって一人でも安心して「自分らしい生活」を送ることができるようになっている。

実はデンマークでは訪問介護スタッフが必要なときに何度でも無料で訪問します。高齢者の自己決定や今ある能力を活性化することを重要視しており、また、市や病院が責任をもって適切な住居・治療を提供する義務が課されています。

特別養護老人ホームのような『プライエム』が多数存在していましたが、現在はこれらの新規建設を禁止し在宅介護を重視する方向に転換しています。

  • 老人ホームを失くす方向で制度が改革されている
  • 自宅で介護を受けている人に対するサービスが充実している
  • 高齢者が住宅で満足できる生活を送れることを国や市が保証している
  • 高齢化対策のモデル国として注目されている

アメリカの介護制度

口を大きく開けて笑う高齢者

アメリカは高齢者の割合は10%を超える程度に留まっています。しかし、ベビーブーム世代の高齢化が始まり高齢化対策に関心が集まっています。

アメリカには日本の介護保険制度のような公的制度がないので民間の保険に加入している人など、一部の人が施設を利用している状況です。また、低年収の人を対象に食事や身体ケア、ハウスキーピングが受けられる「サポート付き住居」があります。

高齢者の多くが自宅に住み続けることを希望しているので、高齢者が住みやすい住宅の整備に向けて動き始めています。

高度な医療技術を誇るアメリカですが介護となるとその対策は遅れていると言えます

まず行政からの支援があまりないので高齢になり体が不自由になったお年寄りの多くは自宅で生活をします。しかし日本と違い少子化という問題は少ないため、お年寄りの子供やお孫さんがローテーションなどを組み家族で介護をしています。

しかしどうしても『女性』に負担が掛かっているのが現状であり、介護にかかりきりになった女性の多くは仕事をあきらめています。

またアメリカも日本と同様に高齢者医療制度はあるのですがあくまで病気になったときに対応できる制度として存在します。高齢になって介護が必要になったり手術のあとのリハビリが必要になったりしたときは満足な保障を受けることができないのです。

そのため民間の保険に加入する必要がありますが保険料はとても高いのが特徴です。経済的に余裕がある方でないと満足な介護を受けることは難しいということになります。

アメリカでは高齢になって体が不自由になったときに、介護施設をすぐに利用できるような補助制度は基本的にありません。国に頼ることは出来ず元気なうちに民間の保険に加入しておかないと介護施設を利用することは難しいのです。

アメリカでは満足な医療や介護を受けることなく亡くなる方もいます。アメリカの方が介護の事で良い点を上げられるとすれば、介護関連に従事している方のお給料が高いことが挙げられます。アメリカの介護施設は基本的に民間企業が多く、サービス内容も充実しており働く方にも十分な報酬を払える企業が多いのです。その分入居料や利用料などはとても高額であり一部の人しか利用できないというデメリットもあります。

なぜアメリカは公的な介護保険制度が整っていないのでしょうか?

それは、自立を重視するアメリカの文化的背景が原因として考えられます。

日本より遥かに人種も多いアメリカは地域コミュニティも様々です。

そのため、助け合いの文化がある日本とは異なり個々の生活は自己責任であるという認識が強くなっています。

ですから、高齢者の生活もまた個人の責任で行うべきという認識が一般的なようです。

アメリカの介護の実態ですが在宅介護率はとても高く家族への負担は相当なものです。

現状、アメリカの高齢者の90%は一般の住宅などに住んでおり、残りの10%はケア付きの住宅や施設に住んでるようです。

米厚労省の統計によると在宅で介護を必要としている方々の70%は支援を受けずに家族によって介護がされています。介護者の70%は女性ですが配偶者もしくは高齢者の娘による介護だということです。

  • 医療制度改革法が成立しており、無保険者に民間医療保険への加入を義務化してい
  • 一つの施設内に様々な介護ステージ用の施設が併設されている
  • 介護関連の仕事をしている人の給料が高めである
  • 介護やリハビリに関しては保障を受けることがほとんど期待できない

オーストラリアの介護制度

遠くを見つめる高齢の漁師
  • 高齢者の介護を施設ケアから住宅ケアにシフトし、地域が支援をしている
  • 介護施設には、運動施設やリハビリ施設が併設されていることもある
  • 要介護度が低い方には、在宅ケアをするための支援もある
  • 移民を積極的に受け入れている国であり、海外からの移民者が介護職に就職しやすい

今後の介護施策方針

今後は介護施設を削減し在宅ケアを推進または継続してゆく方針を打ち出している国が主流です。

老後は施設に頼りきりになるのではなく自宅で自分らしく生き生き生活することを目標とします。そのためには高齢者向けの住宅を整備する必要がありそうです。在宅で訪問介護サービスを利用するため制度の充実とともに、介護の負担が女性だけに偏らないための工夫が必要になってきます。

介護を必要としない介護予防への取り組み

介護職員がすべてのことを支援してしまうと、要介護度が進むと言われています。

これからは過剰な介護サービスを改め、高齢者の今ある能力を生かすように行動を促すことが大切です。そのために役立つのが介護予防の取り組みです。

介護予防は症状の悪化を防いだり回復を目指すことができ自立支援を促すためにとても有効です。

介護予防は施設に入居している高齢者が在宅を目指すためにも非常に有意義な対策となるでしょう。

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By なら

介護業界で15年ほど勤務、近年はベトナムの介護施設で管理者として働く。奥様はベトナム人、息子一人。ベトナム語を勉強し、幾度も挫折を繰り返し復活しています。

3 thoughts on “海外の介護制度の特徴と実施状況、日本と何が違うの?”

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